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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)70260号 判決

原告 株式会社峰岸

右代表者代表取締役 峰岸勝政

右訴訟代理人弁護士 浜二昭男

同 國重愼二

被告 有限会社翡翠園

右代表者代表取締役 熊本朋子

被告 熊本商事株式会社

右代表者代表取締役 熊本朋子

被告 熊本秀次

同 熊本典子

被告ら訴訟代理人弁護士 山下俊之

主文

被告有限会社翡翠園、同熊本商事株式会社及び同熊本秀次は原告に対し、各自金六四一六万九九一一円及び内金三〇一七万一八七〇円に対する昭和六一年五月一〇日から、内金五〇〇万円に対する同月二〇日から、内金三〇〇万円に対する同年六月一〇日から、内金三五万円に対する同年七月一〇日から、内金二五六四万八〇四一円に対する昭和六二年六月三〇日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

原告の被告熊本典子に対する請求を棄却する。

訴訟費用は、原告と被告有限会社翡翠園、同熊本商事株式会社及び同熊本秀次との間においては、原告に生じた費用の四分の三を同被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告熊本典子との間においては全部原告の負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは原告に対し、各自金六四一六万九九一一円及び内金三〇一七万一八七〇円に対する昭和六一年五月一〇日から、内金五〇〇万円に対する同年五月二〇日から、内金三〇〇万円に対する同年六月一〇日から、内金三五万円に対する同年七月一〇日から、内金二五六四万八〇四一円に対する昭和六二年六月三〇日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の事実上の主張

一  請求原因

1  原告は訴外有限会社ユニオンエコー(以下「ユニオンエコー」という。)の振り出した別紙約束手形目録1ないし17記載の各約束手形(以下「本件各手形」という。)を所持している。

2  本件3ないし12及び17の各手形はいずれも支払呈示期間内に支払場所に呈示された。

3  ユニオンエコーは本件各手形の振出人としてその手形債務を負担しているが、被告らも、次のとおり、いずれも法人格否認の法理により本件各手形債務を負担している。

(一) 法人格の形骸化

被告熊本秀次(以下「被告秀次」という。)及び同熊本典子(以下「被告典子」という。また、両被告を「被告秀次夫婦」という。)は、ユニオンエコー、被告有限会社翡翠園(以下「被告翡翠園」という。)、同熊本商事株式会社(以下「被告熊本商事」という。)、訴外有限会社リバー・ダイヤモンド・ジャパン(以下「リバー・ダイヤモンド」という。また、以上の四社を総称して「関連四社」という。)を意のままに支配し、関連四社はいずれも被告秀次夫婦のわら人形であり、かつ関連四社と被告秀次夫婦の間には、財産、業務、収支等の混同がある。

(1)  関連四社の実質的所有

関連四社の設立年月日、定款目的、役員氏名、本店、支店及び営業所の所在地、従業員数は、別紙比較一覧表(以下「一覧表」という。)に記載のとおりである。

ユニオンエコーは、宝石等の輸入、販売等を目的とする会社であり、被告典子の両親である中澤貞雄及び中澤智子(以下「中澤夫婦」という。)が被告秀次夫婦の生計を立てさせるため資本金二〇〇〇万円を出資して設立したのであるが、中澤夫婦はその経営に一切関与しておらず、被告秀次夫婦がその経営を行っていた。

被告翡翠園も、ユニオンエコーと同一の目的で、被告秀次が設立した会社であるが定款目的が一覧表のように変更された後は、専ら有限会社立川フード(以下「立川フード」という。)振出にかかる手形の割引等の業務を行っていた。

被告翡翠園においては、被告秀次の姉である熊本朋子(以下「朋子」という。)がその代表取締役、同被告の弟である熊本賢三が取締役となったが、いずれも名目に過ぎず、被告翡翠園の経営はすべて被告秀次が行っている。

被告熊本商事は、被告秀次が全株式を所有し、かつ支配する会社である。その代表取締役には白川渉(以下「白川」という。)がなっているが、同人はかつて被告秀次が勤務していた今泉商店における同被告の部下であり、名目的代表取締役に過ぎない。なお被告熊本商事は昭和六二年五月営業を廃止した。

リバー・ダイヤモンドは被告秀次夫婦が出資し、かつ、その役員となっており、同被告らがこれを支配している。被告らは、同会社の出資者は被告秀次の父熊本誠三(以下「誠三」という。)であるというが、誠三の出資は名目的なものである。

従業員はユニオンエコーに一人いたが、その他の関連四社にはいない。

以上のように、被告秀次夫婦は、必ずしも関連四社全部について出資をしているわけではないが、自己の意思に忠実な親族や部下を通じてこれを実質上所有し、社員総会や取締役会を開催せず、意のままその経営を行っていたもので、関連四社は被告秀次夫婦の形骸にすぎない。

(2)  財産、業務、収支等の混同

ア 定款目的とその実体

ユニオンエコーとリバー・ダイヤモンドはいずれも宝石類の販売を業としている。

被告翡翠園は宝石、貴金属の販売等を行う目的で設立され、昭和五九年ころまではその業務を行っていた。昭和六〇年三月定款目的が食料品の販売、レストラン経営に変更されたが、これにそう業務は全く行われず、立川フードの手形を割り引いたり、これに融資をしており、被告秀次個人の業務のため被告翡翠園が利用されていた。

被告熊本商事の目的は、サーフボード置場の賃貸であるが、被告秀次やリバー・ダイヤモンドから営業経費の四倍にも上る金員を借り入れ、これを営業外用途に支出しており、サーフボード関連事業は単なる見せ掛けであり、定款目的とは異なる業務が行われていた。

イ 被告秀次夫婦の住居及び関連四社の本店又は支店の同一

被告秀次夫婦の住居は昭和五九年一〇月から別紙物件目録一記載の土地及び建物(以下「本件一の土地及び建物」という。)にあったが、関連四社の本店は、時期的なずれはあるものの、同所に集中しており、ユニオンエコー以外の三社は、巣鴨信用金庫大塚支店と取引するため、名目的かつ便宜的に被告典子の実家である台東区浅草四丁目七番一五号の中澤ビル(以下「被告典子の実家」という。)に支店を置いたし、被告翡翠園とリバー・ダイヤモンドは、神戸市東灘区甲南町の被告秀次の実家(以下「被告秀次の実家」という。)に本店を置いたことがあり、独自の営業事務所はなかった。

また、江東区上野六丁目のグリーンハイツ三〇五号(以下「グリーンハイツ」という。)はユニオンエコーの事務所として使用されたことがある。

ウ 担保物件の相互流用

本件一の土地及び建物は昭和六〇年一二月一〇日付けでユニオンエコーから被告翡翠園に所有権移転登記手続がなされたが、昭和六一年四月二八日付けで、根抵当権者を上見秀夫(以下「上見」という。)、債務者をユニオンエコーとする極度額一億円の根抵当権設定登記がなされており、昭和六一年一〇月二二日付けで根抵当権者を巣鴨信用金庫、債務者をユニオンエコーとする根抵当権設定登記から、債務者を同社と被告翡翠園とする変更がなされており、被告翡翠園が倒産したユニオンエコーの債務を肩代わりしている。

別紙物件目録二記載の土地及び建物(以下「本件二の土地及び建物」という。)のうち、土地については被告秀次夫婦がこれを取得した後、根抵当権者を巣鴨信用金庫、債務者をユニオンエコーとする根抵当権設定登記がなされ、所有権が被告熊本商事に移転した後の昭和六一年七月三日付けで、根抵当権者を上見、債務者をユニオンエコーとする根抵当権設定登記、昭和六一年一二月一七日付けで根抵当権者を巣鴨信用金庫、債務者を被告翡翠園とする根抵当権設定登記がそれぞれなされている。最後の根抵当権は同被告が巣鴨信用金庫から多額の借入をし、そのための担保と考えられる。しかし同被告は本件一の土地及び建物を所有しており、これを担保とせずに本件の二の土地及び建物を担保としたのは、同被告が行う立川フードの手形割引による利益を担保提供料の名目で被告熊本商事にも取得させる目的があったことがうかがわれる。

このように、本件二の土地につき、ユニオンエコーや上見及び被告翡翠園のために根抵当権設定登記がなされているが、同土地が被告熊本商事経営のために利用された形跡はない(もっとも、昭和六一年一二月一七日付けで同被告を債務者として極度額五〇〇〇万円の根抵当権の設定登記がなされているが、これは資金調達のためではなく、被告秀次らの第一勧業銀行に対するローン債務を肩代わりするためのものである。)。

この他被告翡翠園の資金調達のため、リバー・ダイヤモンドは額面五〇〇〇万円の約束手形を振り出して、相浦三重子(以下「相浦」という。)から融資を受けたことがある。

エ 経理処理の混同

関連四社ではいずれも社員総会や取締役会が開かれておらず、被告秀次らがその利益処分を意のままに行っていた。

例えば、被告翡翠園の第二期の決算書には支払利息が計上されているが、第三期の決算書に計上されている未払利息は現実には支払われておらず、第四期以降はその記載さえない。

被告翡翠園は第五期と第六期にそれぞれユニオンエコーとリバー・ダイヤモンドに対し、七一二万円と七四三万円の前渡金を計上し、これらはその次の期に消滅している。しかし、被告翡翠園は立川フードの手形割引しか行っていなかったのであるから、ユニオンエコーから商品を仕入れたはずはなく、この会計処理は不可解である。

オ 関連四社の内部取引

〈1〉 関連四社では、相互間の内部取引が多く、各社が相互に主要な「取引先」であった。

例えば、ユニオンエコーは、仕入、販売ともリバー・ダイヤモンドとの取引量が極めて多かった。

被告翡翠園は定款目的変更前はユニオンエコーとリバー・ダイヤモンドとの取引が大きい比重を占めていた。各決算期における売掛金、買掛金のうち右二社の占める割合は、売掛金が八〇から一〇〇パーセント、買掛金が一〇〇パーセントである。つまり被告翡翠園は、リバー・ダイヤモンドから仕入れた貴金属類をユニオンエコーに販売し、逆にユニオンエコーから仕入れたものをリバー・ダイヤモンドに販売するという恣意的な取引を行っていた。

被告翡翠園の定款目的変更後は、右二社の他被告熊本商事や被告秀次夫婦との取引が始まる。例えば、被告翡翠園は昭和六一年九月から六二年四月までの間に六〇回余りにわたり、リバー・ダイヤモンドから二億円から三億円もの借入をしており、また被告秀次から、ほぼ同じ時期に数十回にわたり五〇〇〇万円から一億円弱の借入をしていたが、前者については八〇〇〇万円余り、後者については五〇〇〇万円余りが未決済のままとなっている。

被告熊本商事は、その業務であるサーフボードに関する取引は極めて少ないが、リバー・ダイヤモンド及び被告秀次夫婦から多額の金銭の借入をし、これを被告翡翠園に貸し付けている。

リバー・ダイヤモンドはユニオンエコーが輸入した貴金属を仕入れ、これをまたユニオンエコーに販売しており、取引のほとんどがユニオンエコーとの間のものである。

〈2〉 ユニオンエコーは本件一の土地及び建物につき、昭和六一年一一月二〇日付けで被告翡翠園に所有権移転登記をしたが、その売買代金は一億一三〇〇万円で、その帳簿価額の一億二五五〇万四九九〇円より一二五〇万円余りも低い。

被告らは、右土地及び建物の売買代金のうち、被告翡翠園はユニオンエコーの巣鴨信用金庫に対する債務六三六八万円及び荒川信用金庫に対する債務一二〇〇万円を代払いし、残額三一五四万三七一〇円はユニオンエコーの被告翡翠園からの借入金と相殺したことになっているが、巣鴨信用金庫に対する債務のうち三七五〇万円は被告翡翠園が巣鴨信用金庫から借り入れてユニオンエコーに支払ったもの、一四〇二万円は被告秀次がこれを捻出し、一二三五万円は被告秀次夫婦の預金と相殺し、荒川信用金庫に対する債務はユニオンエコーが全額を支払い、その結果被告翡翠園とユニオンエコーとの間で清算した同被告がユニオンエコーに支払うべき一一二四万円余りを被告秀次が被告翡翠園に代わって支払ったと主張しているが、その結果、被告翡翠園が実際に支払ったのは三八三六万円に過ぎず、その余の三七六一万円は被告秀次が負担し、三七〇〇万円余りはユニオンエコーが負担した。

被告秀次夫婦は、その所有していた本件二の土地につき、同じ時期である昭和六〇年一二月二三日付けで被告熊本商事に所有権移転登記をした。その代金は頭金の五〇〇万円を除き、被告秀次らが右土地購入のため借り入れた第一勧業銀行及びユニオンエコーの巣鴨信用金庫への債務を被告熊本商事が引き継ぐ方法で支払う契約であった。しかしながら、これらの引受債務については被告熊本商事には支払能力はなく、リバー・ダイヤモンドや被告秀次が実質上これを負担していた。

(二) 法人格の濫用

被告秀次夫婦は関連四社を完全に支配し、自己の意のままに使い分けているが、更に原告の追及をあらかじめ免れる目的で、ユニオンエコーの所有する本件一の土地及び建物と被告秀次夫婦の所有する本件二の土地の所有名義を変更し、ユニオンエコーの倒産のころ上見に対してのみ同物件に担保を設定する等して優先的弁済をし、原告に対する詐害的行為を行い、法人格を濫用している。

(1)  ユニオンエコーは昭和六〇年一月ころまでに大健商事株式会社(以下「大健商事」という。)から一億六〇〇〇万円に上る不渡手形を受け、これを補填することは不可能となり経営状態が悪化した。しかも同年一一月ころは大口の取引先であった株式会社紫貴(以下「紫貴」という。)が事実上倒産し、手形の支払猶予に応ぜざるを得ない状況となり、更に経営が悪化した。したがって、ユニオンエコーが倒産することは目に見えており、そうなれば、ユニオンエコーの債権者から、会社財産や場合によって役員の被告秀次らの財産に差押等の手続がとられるであろうことは当然予見できた。

(2)  昭和六〇年一二月二〇日ころ、被告秀次は原告に対し、「ユニオンエコーの経営が悪化したので援助のため従来の取引量を大きく上回る宝石類を売ってほしい。」と申し入れ、原告はこれに応じた。その結果、同年一一月までの原告のユニオンエコーに対する売上高は月額一〇〇万円前後であったものが、同年一二月からは一〇〇〇万円から五〇〇〇万円に急増した。代金の決済はほとんどが本件各手形を含む約束手形を振り出す方法で行われており、その総額は二億円余りになったが、ユニオンエコーは翌昭和六一年五月一二日手形不渡を出して倒産し、これらの手形は支払われなかった。

しかも、右倒産直前、被告秀次は原告に対し、原告が持っている手形を決済するための資金を貸してほしいと申し入れ、原告がこれに応じて三〇〇〇万円を銀行に振り込んだところ、上見がユニオンエコー振出の小切手を呈示してこの資金で支払を受け、その結果原告の持っていた手形が不渡となり、倒産したもので、これは被告秀次と上見とが相通じてなした詐害的行為である。

このように、被告秀次らは昭和六〇年一二月当時、ユニオンエコーの経営が悪化していたにもかかわらず、手形を振り出して原告から大量の商品を買い入れることを計画し、場合によってはその手形が不渡になり、ユニオンエコーが倒産し、同社や被告秀次らに責任追及があることを予定して、あらかじめ本件一の土地及び建物並びに本件二の土地の名義を変更して財産の隠匿を図ったのである。

4  よって、原告はユニオンエコー、被告翡翠園及び同熊本商事の法人格を否認し、同被告ら及びその背後にあってこれらを支配している被告秀次夫婦に対し、各自本件各手形の手形金及び呈示された各手形については支払期日から各支払済まで手形法所定年六分の割合による法定利息、その余の各手形については、訴状送達の日の後である昭和六二年六月三〇日から各支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

ユニオンエコーが本件各手形を振り出したことは認め、原告がこれを所持していること及び本件各手形が呈示されたことは不知。法人格否認の主張は争う。理由は次のとおりである。

(一)  法人格の形骸化について

(1)  関連四社の実質的所有について

関連四社の設立年月日、定款目的、役員氏名、本店、支店及び営業所の所在地、従業員数、被告秀次夫婦と中澤夫婦、朋子、白川の身分関係等が原告主張のとおりであること、関連四社で取締役会が開催されていないことは認める。

本件一の建物はもと被告秀次夫婦の自宅であり、被告翡翠園、リバー・ダイヤモンドの事務所、本件二の建物は被告熊本商事の事務所でもあった。ユニオンエコーの事務所はグリーンハイツにあった。

ユニオンエコーは、被告典子の両親である中澤夫婦が被告秀次夫婦の生計を立てさせるために二〇〇〇万円を出資して設立した会社であることは原告主張のとおりであるが、その後被告秀次がさらに一〇〇〇万円出資している。同被告はユニオンエコーの経営者であるが、支配はしていない。

被告翡翠園は、朋子が宝石の鑑定等の業務を行う目的で全額出資して設立した会社であり、その後定款目的を原告主張のように変更した後は、立川フードの手形割引等の業務を行っている。被告秀次は朋子を補佐し、共同経営を行っているが、支配はしていない。

被告熊本商事は被告秀次夫婦が出資して設立した会社であり、その実質は被告秀次の所有といえるが、その経営者は白川であり、日常業務は同人によりなされており、被告秀次は経理の仕事をしているに過ぎない。

リバー・ダイヤモンドは、ベルギーのリバー・ダイヤモンド社の販売拡張のため、被告秀次が誠三に出資してもらって設立した会社であるが、その後社員権の半分はベルギーのリバー・ダイヤモンド社に譲渡した。被告秀次はリバー・ダイヤモンドの経営を行っているが、出資はしていない。

(2)  財産、業務及び収支の混同について

ア 定款目的とその実体について

定款目的と営業の実体の乖離は法人格否認の法理の適用には関係がない。関連四社のうち、ユニオンエコーとリバー・ダイヤモンドとがいずれも宝石類の取引を目的としていることは原告主張のとおりであるが、その他の会社は他の業務を目的としている。被告翡翠園は定款目的とは異なる手形割引等の業務をしているが、これは会社としての業務であり、被告秀次個人の業務ではない。

原告は被告熊本商事のサーフボード関連業務は見せ掛けであるというが、同社はその業務を行うため多額の商品購入費、一般管理費を支出し、業務に必要な本件二の建物を建築しており、売上金でまかなえない支出は被告秀次からの借入金で補ったのである。

イ 被告秀次夫婦の自宅と関連四社の本店又は支店について

原告は登記簿等の表示から被告秀次夫婦の自宅と関連四社の本支店の同一性をいうが、実体からみれば、相互に同一性、共通性はない。

すなわち、ユニオンエコーの事務所は被告典子の実家、グリーンハイツ、被告典子の実家と移転しており、リバー・ダイヤモンドの事務所はユニオンエコーのそれと同じところにあった。

被告翡翠園の事務所は被告秀次の実家又は本件一の建物にあり、被告熊本商事の事務所はこれに隣接する本件二の建物にあった。

ウ 担保物件の相互利用について

本件一及び二の土地及び建物につき、原告主張のような根抵当権が設定されていることは認める。

しかし、権利者を上見とする根抵当権設定については、ユニオンエコーが倒産前に上見から融資を受け、昭和六一年四月ころ同人に根抵当権設定のための書類を渡していたところ、同人がこれを利用してユニオンエコー倒産後に登記手続をしたに過ぎない。

また、根抵当権の債務者がユニオンエコーから同社と被告翡翠園に変更されたのは、本件一の土地及び建物の代金を支払うため、被告翡翠園が巣鴨信用金庫から三七五〇万円を借りた際、元のユニオンエコーの根抵当権設定登記を流用したに過ぎない。

原告被告翡翠園が義務もないのにユニオンエコーに三七五〇万円を支払ったというが、被告翡翠園はユニオンエコーから本件一の土地及び建物を買い受け、その代金支払に代えて同社の巣鴨信用金庫に対するローン残債務を引き受けたが、同金庫との関係では、債務引受けの形になっていなかったので、被告翡翠園がユニオンエコーに三七五〇万円を支払い、同社がこれを同金庫に支払ったのである。

本件二の土地及び建物につき、債務者を被告熊本商事及び同翡翠園とする根抵当権設定登記がなされたのは、被告翡翠園が巣鴨信用金庫から受ける融資のための担保を提供することになった際、既に同被告の所有する本件一の土地及び建物には多額の担保権が設定されていたので、同金庫から本件二の土地及び建物を担保に提供するよう要求され、これに応じたに過ぎず、被告翡翠園の利益を被告熊本商事に取得させるためではない。

これらの担保提供を受けた会社は、提供料を支払っている。

被告翡翠園が相浦から融資を受けた際、リバー・ダイヤモンドが手形を振り出したのは、両者の協力関係を示すものであり、財産等の混同とは関係がない。

エ 経理処理の混同について

被告翡翠園は被告秀次夫婦から借入をしたが、利息は支払う約束であり、現に被告翡翠園の決算書には、「支払利息」、「未払金」等として計上されている。

オ 関連四社の内部取引について

〈1〉 ユニオンエコーとリバー・ダイヤモンドとの取引量が極めて多かったという事実はない。両者は在庫商品も取引先も違うから、例えば、ユニオンエコーが自分の取引先が必要とする商品をリバー・ダイヤモンドから仕入れることは当然であり、両者間の取引は通常の取引と全く同じである。

被告翡翠園とユニオンエコー及びリバー・ダイヤモンドとの関係も同じである。原告の主張は決算書の売掛金、買掛金の残高の記載に基づくものであるが、これは期末における一時的な数字に過ぎず、一年を通じた取引の実体を示すものではない。

〈2〉 原告主張のとおり、本件一の土地及び建物並びに本件二の土地が譲渡されたことは認める。しかし、ユニオンエコーが本件一の土地及び建物を被告翡翠園に譲渡したのは、ユニオンエコーにおいて、大健商事振出手形の不渡や、紫貴の経営危機等により、右不動産購入のために銀行から借り入れた融資の返済が負担となり、他方被告翡翠園は立川フードの手形割引業務により資金的余裕ができたという事情によるものであり、財産の隠匿とは無関係である。売買代金額は帳簿価額より一〇〇〇万円位低いが、本件一の建物は昭和五九年九月の建築から約一年余りを経過していたから、帳簿価額より低い価格でしか売れなかったのは当然である。

右代金のうち、三一五四万円余りは被告翡翠園のユニオンエコーに対する貸金債権で相殺し、巣鴨信用金庫に対するローンについては、昭和六一年九月までにユニオンエコーが巣鴨信用金庫に支払った月賦金と被告翡翠園のユニオンエコーに対する貸付金とを相殺し、昭和六一年一〇月二一日被告翡翠園が巣鴨信用金庫から三七五〇万円を借りてユニオンエコーに一括返済し、更に、一四〇二万円は被告翡翠園が被告秀次から借りて返済し、一二三五万円は被告秀次夫婦の巣鴨信用金庫への預金で代位弁済している。また、荒川信用金庫の一二〇〇万円は、まずユニオンエコーが昭和六一年四月二四日同金庫に一括して支払い、被告翡翠園はその一部をユニオンエコーに対する債権で相殺し、残額一一二四万円余りは被告秀次が同翡翠園に代位して支払った。結局、被告翡翠園はユニオンエコーに全額支払ったことになるが、被告秀次夫婦に立替えをしてもらった金が未決済となっている。

次に、被告秀次夫婦は、最初から被告熊本商事に同社の営業用財産として譲渡するため、本件二の土地を購入し、同被告設立後予定どおり譲渡したに過ぎない。売買代金は、同被告から被告秀次夫婦にきちんと支払われている。被告熊本商事がサーフボード関係の営業活動を現実に開始したのは昭和六一年四月からであり、それまでの間営業収入はなかったが、リバー・ダイヤモンドから借入を行い土地代金を支払ったのである。代金のうち五〇〇万円は現金で支払い、他は第一勧業銀行に対するローンの残債務を引き継ぎ、かつユニオンエコーの巣鴨信用金庫に対する債務の担保提供者たる地位を引き継ぐ形で決済した。そして、被告熊本商事は、第一勧業銀行に対する債務につき、一部はローンの月賦金を被告秀次夫婦の口座に振り込み、残りは昭和六一年一二月九日巣鴨信用金庫から借り入れて一括して返済した。

(二)  法人格濫用について

大健商事の手形不渡、紫貴の経営危機により、ユニオンエコーの経営が楽ではなかったこと、原告からの宝石購入量が増大したこと、ユニオンエコーが倒産したことは認める。

しかし、昭和六〇年末において、ユニオンエコーに倒産の危険があったわけではない。宝石購入量が増えたのは原告の方から増やして欲しい旨の申入があり、ユニオンエコーの方もベルギーからの宝石購入は決済条件が厳しいので、仕入れ先をベルギーから原告に切り換えた結果に過ぎない。また、倒産の原因は、被告秀次が昭和六一年四月一〇日から三〇日まで入院し、一時は危篤状態になったこと、そのため巣鴨信用金庫がユニオンエコーに対して手形割引をしてくれなくなったこと、昭和六一年四月一二日に紫貴が不渡手形を出して倒産したことにある。

前記のように、本件一の土地及び建物並びに本件二の土地の譲渡は、正当な理由があってなされたもので、代金もきちんと支払われており、原告の主張するようなユニオンエコーや被告秀次夫婦の財産の隠匿や原告に対する詐害とは関係がない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  ユニオンエコーの本件各手形債務について

ユニオンエコーが本件各手形を振り出したことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、原告は本件各手形を所持していること、本件各手形のうち3ないし12及び17の各手形は支払呈示期間内に呈示されたことが認められる。

二  法人格否認について

1  法人格形骸化について

(一)  関連四社の実質的所有及び経営

(1)  関連四社の設立年月日、定款目的、役員氏名、本店、支店及び営業所所在地と被告秀次夫婦の住所、実家との関係、従業員数が一覧表のとおりであること、関連四社の実際の業務は、ユニオンエコー、リバー・ダイヤモンドが宝石類の販売等、被告翡翠園は当初はこれと同じであったが、昭和六〇年三月に定款目的を一覧表のように変更して後は、専ら立川フードの手形割引又はこれへの融資、被告熊本商事はサーフボード置場及びサーフィン関連商品の販売であったこと、中澤夫婦は被告典子の両親、朋子は被告秀次の姉、白川は被告秀次がもと勤務していた会社の部下であったこと、ユニオンエコーの設立当初の出資者は中澤夫婦であること、ユニオンエコー及びリバー・ダイヤモンドの実際の経営者は被告秀次であることは当事者間に争いがない。

(2)  右(1) の争いのない事実並びに〈証拠〉によれば、中澤夫婦は金網の製造卸業を目的とする株式会社中澤金網の経営を営んでおり、宝石販売等の業務についての知識、経験は全く有しておらず、新たに右のような仕事をする意思はなかったこと、これに反して、被告秀次は宝石卸業を営む株式会社今泉商店の常務取締役であったもので、同分野に精通していたところ、同商店の倒産により昭和五五年六月ころ失業し、その後しばらく被告典子とともにその実家である中澤夫婦方でその世話になっていたこと、中澤夫婦が出資してユニオンエコーを設立したのは、右のような困窮状態にあった被告秀次にその知識経験を生かした仕事をさせ、同被告夫婦の生計を立てさせることにしたためで、中澤夫婦自身が資本出資、経営参加をすることによって利益を図る目的はなかったこと、したがって、中澤夫婦は設立当初のユニオンエコーの唯一の株主かつ役員であったものの、同社の設立後も中澤金網の業務に専念し、ユニオンエコーの経営はすべて被告秀次に任せ、利益配当や役員報酬を受け取らず(ユニオンエコーは遅くとも昭和五八年八月一日から同六〇年七月三一日までの二事業年度において毎期利益を上げていたが、利益分配をしないで社内に留保していた。)、株主、役員とは名ばかりであったこと、被告典子は昭和五六年九月に同社の代表取締役に就任したが、これは被告秀次の意向によるもので、同社の経営はその後も引き続き被告秀次が行い、被告典子は伝票付けや帳簿付けといった限定的かつ補助的な仕事を行っていただけであり、書類上同被告に支払われたことになっている給料も現実にはその手に渡っておらず、被告秀次が自由に処分していたと推認されること、昭和五七年一一月ころには被告秀次の出資により一〇〇〇万円の増資がされていること、ユニオンエコーの事務所は設立時は被告典子の実家にあったものの、その後同被告所有のグリーンハイツに移り、ここで事務員を使用して営業をし、昭和六〇年暮れに再び同被告の実家に移転したが、同六一年五月一二日に手形不渡を出して倒産し、現在は休業状態であることが認められる。右事実によれば、ユニオンエコーは実質上被告秀次の所有、経営する会社であったといえる。

(3)  前記(1) の争いのない事実並びに〈証拠〉によれば、被告翡翠園は、被告秀次の実姉でコンピュータープログラマーをしていた朋子が、交通事故の後遺症等により右の仕事を続けられなくなったことから、宝石鑑定の仕事をして生計を立てるため、被告秀次の実弟の熊本賢三を名目的な出資者、役員に加えて自ら出資して、宝石貴金属の輸入、卸小売を目的として、昭和五六年三月二八日に設立されたこと、ところが、朋子は宝石取引についての知識経験は皆無であったことから、設立当初からその業務は同分野に精通している被告秀次の指導、援助を受けて行うことが予定されており、かつ、そのとおりに実行されたこと、被告翡翠園は朋子が宝石鑑定の資格を取るまでのつなぎということで右のように宝石販売業を営み、年間約四〇〇〇万円の取引を行っていたものの、宝石鑑定業務は結局全く行わなかったこと、同社は昭和五九年ころには宝石の販売をやめ、昭和六〇年三月に定款目的を食料品の販売等に変更した後は、立川フードの手形割引を主たる業務とするようになったが、右取引は立川フードの代表者立川幸雄と知り合いであった被告秀次の発案で始まり、朋子はこれに従ったに過ぎないこと、同社の本店、事務所は、設立時は朋子の実家に置かれ、定款目的変更と同時にグリーンハイツに移転し、昭和六一年八月に本件一の建物が完成した後は被告秀次の自宅である同所を事務所としていたが、朋子はその後も住居を移すことなく月の半分位だけ東京に出向いて仕事を行っていたこと、被告秀次は昭和六一年一月から同六二年五月までの約一年六箇月の間に、無担保で被告翡翠園にその資本金の二〇倍近くに当たる合計九八四六万円を貸し付け、その約半分に当たる約四五〇〇万円の返済を受けていないのに対し、朋子は昭和六二年五月三一日現在で同社にわずかに五三八万円余りを貸し付けていたに過ぎないこと、同社の主要な業務は定款目的変更後も被告秀次が行い、朋子はその目的変更の前後を通じ一貫して商品の値付け、台帳、帳簿の管理といった補助的な業務に携わっていたに過ぎないこと、立川フードが昭和六二年三月三一日に手形不渡を出して倒産したため、被告翡翠園もそのころから活動しないで現在に至っていることが認められる。

被告らは、被告翡翠園は、宝石鑑定の仕事で身を立てる目的で朋子が設立した同人の所有、経営する会社であり、同被告が宝石鑑定の仕事をしなかったのは、顕微鏡を使ってする細かい作業が要求される右鑑定業務が交通事故の後遺症のある朋子には困難であることが判明した結果である旨主張するが、前記認定の各事実及び右主張の事情は当初からある程度予想されていたこと等に鑑みると、右主張は採用し難く、被告翡翠園は、設立当初はまだしも、遅くとも目的を変更した昭和六〇年三月ころ以降は被告秀次が所有し、かつ、支配していた会社で、朋子もそのころまでには帳簿付け等の補助的業務を行って応分の給与を受け取ることに甘んじ、被告秀次に同社の経営を任せるようになっていたものと解するのが相当である。

(4)  前記(1) の争いのない事実並びに〈証拠〉によれば、被告秀次は、昭和六〇年八月同被告夫婦の名義(持分各二分の一の共有)で本件二の土地を購入し、同年一二月に全額出資してサーフボード置き場の賃貸及びサーフィン関連商品の販売等を目的とする被告熊本商事を設立し、その業務用地として使用させるため、同被告に右土地を売り渡したこと、同被告は、昭和六一年四月に右土地上に本件二の建物を新築して右営業を始めたこと、同被告の営業は、設立当初はその代表取締役であった白川が、その後はその取締役であった野田進が行い、その余の登記上の取締役は名目的な存在に過ぎなかったこと、役員報酬等の支出は、第一期事業年度(設立当初の三箇月間)にはなく、昭和六一年二月からなされたが、その額は一事業年度当たり合計三八八万円余り、野田の役員報酬は二一〇万円余りで、同被告が赤字経営であったことを考慮にいれてもわずかな額に過ぎないこと、白川は、被告秀次のかつての部下であるばかりか、同被告が支配するユニオンエコーの取締役として同被告の下で働いていたものであり、したがって、同被告の役員人事は白川の助言があったにしても、最終的には被告秀次の決定により行われていること、同社の唯一の不動産である本件二の土地及び建物についての権利の取得、移転及び担保権設定、又は他に対する金銭貸付け等の財産上の重要な行為は、ユニオンエコー又は被告翡翠園あるいは後記(5) 認定のとおり被告秀次が経営を支配するリバー・ダイヤモンド等との間に行われており、これらは被告秀次の意向により決定実行されたとしか考えられないこと、同社の本店はユニオンエコー及びリバー・ダイヤモンドの本店がある本件一の土地及び建物に隣接していたこと、昭和六二年五月に本件二の土地及び建物を売却したため、同社は現在休業状態であることが認められる。

右事実によれば、被告熊本商事は、被告典子を名目的な共同出資者として、被告秀次が出資、設立し、かつ、経営していた会社であると認められる。

(5)  前記(1) の争いのない事実並びに〈証拠〉によれば、リバー・ダイヤモンドは、前記ユニオンエコーの商品輸入先であるベルギーのリバー・ダイヤモンド社の要請を受けた被告秀次の意向により、宝石貴金属の輸入と卸小売を目的として、昭和五七年四月一六日に設立されたこと、本店は登記上では同被告の実家に置かれていたが、実際には独立した店舗等はなく、ユニオンエコーの事務所を連絡先にして被告秀次が一人でその経営を切り回していたこと、同社は昭和五七年一〇月一日から始まる事業年度から三期連続で黒字経営をしており、役員報酬、従業員給料として年間九四〇万円から一六〇〇万円の支出をしながら、出資者と称する誠三やベルギーのリバー・ダイヤモンド社に対する配当は全く行われておらず、その他にもこれらの者の利益に配慮した形跡はうかがわれないこと、ユニオンエコーの倒産後の昭和六一年九月には、本店を被告秀次の自宅である本件一の建物に移し、また同建物が売却された昭和六二年六月には東京都世田谷区岡本の当時の被告秀次の住居に移し、現在も営業活動をしていること、昭和五七年九月にリバー・ダイヤモンドの社員権の半分が被告秀次からベルギーのリバー・ダイヤモンド社に譲渡されていることが認められる。

被告秀次は、リバー・ダイヤモンドは実質的には誠三が出資して設立した会社である旨供述しているが、右供述は右認定事実に照らして採用できず、同社は、設立当初は被告秀次が所有、経営し、社員権譲渡後は同被告とベルギーのリバー・ダイヤモンド社とが各二分の一を所有し、同被告の経営する会社であると認められる。

(6)  以上によれば、本件各手形が振り出された当時、関連四社のうちリバー・ダイヤモンド以外は、被告秀次がいずれも会社を実質的に所有、支配し、リバー・ダイヤモンドは同被告が社員権の二分の一を所有し、かつ、支配していたものといえる。

(二)  株主総会等の不開催

関連四社で取締役会が開催されていないことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉には、リバー・ダイヤモンドが昭和五七年九月一〇日に、被告翡翠園が昭和六〇年三月九日にそれぞれ社員総会を開催した旨の記載がある。しかしながら、関連四社において、他に社員総会や株主総会が開催されたことを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、弁論の全趣旨によれば、右各総会は開催されていないことが認められ、右各〈証拠〉も単に定款変更の登記手続をするためだけに作成されたもので、社員総会は開催されていなかったと推認され、結局関連四社においては、会社として法の要求する意思決定手続は履践されていなかったというほかない。

(三)  業務の混同

〈証拠〉によれば、原告は、昭和五七年ころ、ユニオンエコー、被告翡翠園、リバー・ダイヤモンドの三社と宝石の取引をしていたが、交渉相手はいずれも被告秀次であり、昭和五八年からユニオンエコーの取締役であった白川がその手伝いをしていたこと、原告は取引の相手方となる会社を被告秀次の指示に従って振り分けていたが、右三社とも同被告の会社で同一の取引先であると認識していたことが認められ、〈証拠〉によれば、ユニオンエコー、リバー・ダイヤモンド及び被告翡翠園(ただし、昭和五九年九月ころまで。)は、相互に多数、多額の宝石の取引を行っていたことが認められる。

被告秀次は、右取引は、右三社の顧客のさまざまな注文に応じるために行った必然的なものである旨供述するが、右三社とも同被告が経営していたこと等を考慮すれば、右供述は採用し難く、右の取引は、三社の利益を分散するために行われたものと推認するのが相当である。

右事実によれば、昭和五九年九月ころまでは右三社間で、その後はユニオンエコー及びリバー・ダイヤモンド間で宝石取引の業務が混同していたといえる。

(四)  財産の混同

(1)  ユニオンエコーと被告翡翠園

ユニオンエコーは本件一の土地及び建物を所有していたが、昭和六〇年一一月二〇日にこれを被告翡翠園に帳簿価額より一二五〇万円余り低い価格で譲渡したこと、被告翡翠園は昭和六一年四月二八日にユニオンエコーを債務者、上見を債権者とする根抵当権を設定したことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、ユニオンエコーは、被告翡翠園から昭和六〇年一一月から翌年四月までの間に、六〇〇〇万円余りを借り入れていることが認められる。

(2)  ユニオンエコーと被告熊本商事

本件二の土地及び建物は被告熊本商事が所有していたところ、同被告はこれらに昭和六〇年一〇月二四日、ユニオンエコーを債務者、巣鴨信用金庫を債権者とする根抵当権を設定し、昭和六一年七月三日にユニオンエコーを債務者、上見を債権者とする根抵当権を設定したことは当事者間に争いがない。

(3)  被告翡翠園と被告熊本商事

〈証拠〉によれば、右のとおり本件二の土地及び建物は被告熊本商事が所有していたところ、同被告は、昭和六一年一二月一七日、これらに被告翡翠園を債務者とする根抵当権を設定し、その担保提供料として被告翡翠園は被告熊本商事に対し、翌六二年二月末日までの一事業年度二五〇万円を支払っていること、〈証拠〉によれば、被告翡翠園は昭和六二年五月三一日現在、被告熊本商事から二〇〇〇万円を借り入れていたことが認められる。

(4)  ユニオンエコーと被告秀次

被告秀次は本件二の土地を所有していた昭和六〇年一〇月二四日、これにユニオンエコーを債務者とする根抵当権を設定していることは当事者間に争いがない。

(5)  被告翡翠園と被告秀次ら

〈証拠〉によれば、昭和五八年二月末現在、被告秀次は四一〇万円、朋子は七〇〇万円、被告典子は二五〇万円、被告秀次の母親である熊本千恵子は九〇〇万円、誠三は三三〇万円、熊本賢三は一五〇万円(以下被告秀次以外の者を総称して、「その家族」という。)、同五九年二月末現在、被告秀次は四一〇万円、その家族は合計二六八〇万円余り、同六〇年二月末現在、同被告は四一〇万円、その家族は合計二七四〇万円余り、同年五月末現在、同被告は六一〇万円、その家族は合計一八六〇万円余り、同六一年五月末現在、同被告は六一〇万円、その家族は三八六〇万円余り、同六二年五月末現在、同被告は五一一三万円、その家族は五一八〇万円余りといずれも少なくない額の金員を被告翡翠園に貸し付けているところ、前記(一)(3) で認定したように、被告秀次がユニオンエコーを支配していること等から、右家族の貸付は同被告が依頼して行わせたものと推認される。

本件一の土地及び建物が原告主張のとおりユニオンエコーから被告翡翠園に譲渡されたこと、同被告はその代金の一部を支払ったものの、他は被告秀次夫婦から借り入れ、又はこれに代位弁済させて支払ったことは当事者間に争いがなく、その額は、被告翡翠園の分が三〇〇〇万円余り、巣鴨信用金庫からの借入分が三七五〇万円、被告秀次からの借入分が一四〇〇万円、同被告又は同被告夫婦に代位弁済させた分が約二三〇〇万円であったことは被告らの自陳するところである(原告は三七〇〇万円余りはユニオンエコーが負担したというが、これを認めるに足りる証拠はない。)。

(6)  被告熊本商事と被告秀次

本件二の土地は被告秀次が同被告夫婦名義で購入した後、昭和六〇年一二月三日に被告熊本商事に譲渡され、同月二三日その旨の所有権移転登記がなされていることは当事者間に争いがなく、右土地の売買契約書(〈証拠〉)には、その代金は六二〇〇万円で、うち〈1〉五〇〇万円は被告秀次夫婦に支払うが、その余の代金は被告熊本商事が、〈2〉被告秀次夫婦の第一勧銀ハウジングセンターに対する各二三五九万〇一三九円のローン、〈3〉ユニオンエコーの巣鴨信用金庫に対する一九七四万一〇〇〇円のローンをそれぞれ肩代わりして支払う旨記載されていることが認められる。

しかし、〈1〉ないし〈3〉の金額の合計が売買代金を約一〇〇〇万円超えてしまうことにつき納得できる説明はなく、当事者間で真実約定どおりに右代金を支払い、かつ、受け取る意図があったかは疑問である。

右代金のうち五〇〇万円は直ちに支払われたが、その結果資金が無くなった被告熊本商事は、リバー・ダイヤモンドから多額の借入をして運転資金や被告秀次夫婦に支払う月賦金を賄ったことは当事者間に争いがない。

そして、〈証拠〉によれば、被告熊本商事は、昭和六〇年一二月から六一年二月まで売上がなく、同年三月から同六二年二月までの営業損失が四六八万円余りであること、同被告の利益は仮に上がったとしてもその営業規模からみてわずかと予想されていたことが認められる。

右によれば、被告熊本商事は、当初から自己資金のみでは本件二の土地の代金を支払うことは不可能で、被告秀次もこれを認識していたことが認められ、このような事実からみると、右売買は通常の取引とは言い難い。

(7)  リバー・ダイヤモンドと被告翡翠園

〈証拠〉によれば、被告翡翠園が相浦から資金を借り入れるに際し、リバー・ダイヤモンドが振り出し、被告秀次が保証した約束手形を差し入れたことが認められる。

(8)  リバー・ダイヤモンドと被告熊本商事

〈証拠〉によれば、被告熊本商事は、リバー・ダイヤモンドに対し、昭和六一年二月末日現在で約五三〇万円、翌六二年二月末日現在で一九八〇万円の借入金債務があることが認められる。

(9)  関連四社がそれぞれ独立に決算を行い、税務申告をしていたことは明らかであるが、右(1) ないし(8) の事実によれば、ユニオンエコーと被告翡翠園、同被告と同秀次、同熊本商事と同秀次との間には、財産が混同しているといいうる程の財産上密接な関係があり、ユニオンエコーと被告熊本商事、ユニオンエコーと被告秀次、同翡翠園と同熊本商事、同秀次と同翡翠園、リバー・ダイヤモンドと被告翡翠園、リバー・ダイヤモンドと被告熊本商事との間には、それぞれ担保提供、貸借等の財産上の関係があったといえる。

(五)  結論

以上を総合すれば、ユニオンエコー、被告翡翠園、同熊本商事は、その実質的所有者で、かつ、経営者である被告秀次を介して互いに会社財産の混同関係があり、法定の会社意思決定手続も履践しておらず、これら会社の法人格は形骸化していて、被告秀次のわら人形にすぎないということができる。

よって、ユニオンエコー、被告翡翠園、同熊本商事、同秀次はこれを同一視することができる。

2  法人格の濫用について

(一)  ユニオンエコーの経営悪化

〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

ユニオンエコーは昭和六〇年五月ころ、大健商事の一億六〇〇〇万円余りに上る手形が不渡となったため、これの買戻をし、経営状態は悪化していた。また、同年一一月その最大の取引先であった紫貴が事実上倒産し、紫貴振出の一億七〇〇〇万円余りの手形を受け取っていたユニオンエコーは経営が更に困難となった。そのころ開かれた紫貴の債権者会議で、紫貴振出の手形の決済方法等につき、決済資金の三割は紫貴が準備し、七割は手形債権者が紫貴に融資し、手形を支払期日において決済すること、融資に対しては紫貴が新たな手形を振り出すこと、紫貴が三割の決済資金を得るため、手形債権者は紫貴に宝石類を提供することを旨とする合意がなされた。

右のような事情から、被告秀次は、同年一二月二〇日ころ、原告に対し、販売を拡張したいので商品の取引高を増やしてくれるよう依頼し、原告がこれに応じた結果、同年九月ないし一一月のユニオンエコーの原告からの仕入高がそれぞれ一四三万円、八三万円、九三万円余りであったのに対し、同年一二月ないし翌六一年四月の仕入高は、それぞれ一七三三万円、三七一六万円、二三四九万円、五一七三万円、一〇四三万円余りと大幅に増加した。そして本件各手形は昭和六〇年一二月以降における右取引の代金支払のため振り出されたものの一部である。

被告秀次は、原告との取引が同年一二月から増加したのは、ベルギーのリバー・ダイヤモンド社の取引条件が厳しいため、仕入先を同社から原告に変えた結果である旨供述しているけれども、〈証拠〉によれば、ユニオンエコーとベルギーのリバー・ダイヤモンド社との取引が同年一二月ころから減少したとは認められないから、被告秀次の右供述は採用できない。

(二)  本件一の土地及び建物の移転

本件一の土地及び建物は前記1(四)(1) のとおり、昭和六〇年一一月二〇日にユニオンエコーから被告翡翠園へ売却されているところ、被告秀次は、右売却の理由につき、ユニオンエコーの経営が悪化し、ローンの負担に堪えられなくなったため、資金的に余裕のあった被告翡翠園にその支払をさせる目的であった旨供述しているけれども、同土地及び建物の帳簿価額は一億二五五〇万円余りであるのに対し、売買価格はこれを一二五〇万円余り下回る一億一三〇〇万円(〈証拠〉)であって、売買価格が時価を反映した正当な取引価格と認めるに足りる証拠はない。

被告秀次は、本件一の建物の新築後の年月の経過により、時価が下落した結果右売買価格で売らざるを得なかった旨供述しているが、右建物の経過年月(約一年二箇月)、所在地、構造等やこれらから推認される法定耐用年数、減価償却額等を考えると、右供述は信用できない。

(三)  本件二の土地の移転

本件二の土地は前記1(四)(6) のとおり、昭和六〇年一二月一三日に被告秀次から同熊本商事に売却されている。しかしながら、前記のように同被告から同秀次に支払うべき売買代金のかなりの部分は、最終的に被告秀次が負担していること、その売買価格は被告熊本商事の資本金の一〇倍を超える高額なものであること、同被告の営業内容やその規模等からみて同被告が売買代金を支払いながら収益を上げていくことは相当期間不可能であること、売買代金と現実に支払うべきものとされた金員の間には一〇〇〇万円のそごがあること等から、右売買代金を確実に支払っていくことは必ずしも予定されていなかったと認められる。

そうすると、本件二の土地の売買は実質的に売買に名を借りた現物出資ともみられ、その目的は、ユニオンエコーの倒産に備え、その役員である被告秀次夫婦名義の責任財産を被告熊本商事に移転させるためであったものと推認される。

(四)  結論

以上の事実を総合すると、被告秀次は、ユニオンエコー、被告翡翠園、同熊本商事に対する支配力を利用して、ユニオンエコーの倒産の危険が出てきた昭和六〇年一一月ころ、その責任財産の隠匿を図るため、一方でユニオンエコーの所有する本件一の土地及び建物を被告翡翠園に移転し、他方で同年一二月には被告秀次夫婦名義の本件二の土地を被告熊本商事に移転したものと認められ、ユニオンエコーを支配する被告秀次は被告翡翠園の法人格を、被告秀次個人は同熊本商事の法人格をそれぞれ濫用したものといえる。すなわち、被告翡翠園と同熊本商事の法人格は、法人格の濫用を理由としても否認され、それぞれユニオンエコー、被告秀次と同一視される。

3  被告典子について

被告典子は同本人尋問の結果から明らかなとおり、関連四社の一部の設立や業務執行に単にその名前を貸すことを承諾していたが、これらを実質的に支配していたわけではなく、また被告秀次とともに法人格の濫用に関与していたとも言えないので、ユニオンエコーの本件各手形債務を負うべき理由はないものといわなければならない。

三  よって、原告の本訴請求のうち、被告翡翠園、同熊本商事及び同秀次に対する請求はいずれも正当であるからこれを認容し、被告典子に対する請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、九三条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷澤忠弘 裁判官 鈴木秀行 裁判官 宮本初美)

別紙〈省略〉

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